2003年9月15日(月)に起きた蓬莱沖ヨット転覆事故と風

デジカメ画像提供&HP作成  琵琶湖地域環境教育研究会 松井 一幸 2003.10.11.

<はじめに>
・2003年9月15日(月)の夕方、ヨット転覆事故が起きた。TV等で速報されたが、発生場所が北浜沖や志賀町沖という報道と、ヨットの捜索が志賀町荒川沖とも思える映像を映していたため、筆者は比良オロシによる北西の風に煽られたと考えていた。
・18日(木)昼過ぎになって、水中カメラを搭載した県の調査船が水深45.9mの湖底に沈んだヨットと3遺体を発見。場所が特定された。
・20日(土)午後からクレーン船による引揚作業が始まり、夕方にヨットが吊り上げられた。浜辺から作業の様子を見守りながら、位置を変えて、対岸の景色と対比させながら、クレーン船の正確な位置を求めてみた。
・この結果、転覆位置が引揚位置と大きく変わらないなら、JR蓬莱駅から東南東約1.3km位のところになる。ここはビワコダス風観測ポイントであるBSCヨットスクールの東約1.2km位にあたる。事故当日のBSCにおける観測は機器故障のため止まっていた。誠に残念である。
・しかし、正確な位置が特定できたので、1998年から2003年までのビワコダス風観測の過去のデータから、今回の風を考察してみたい。

<現場の位置確認>
浜辺観察によるクレーン船引揚位置の確認:2003年9月20日(土) 地図上での位置決定
  観察1)蓬莱浜から岡山方面にクレーン船をとらえる
  観察2)八屋戸浜から三上山方面にクレーン船をとらえる
  観察3)JR志賀駅東の浜からラホーレ琵琶湖方面にクレーン船をとらえる

<風の風景 -比良オロシ編->
1)2003年9月15日(月) ヨット転覆事故当日の解説
2)2003年9月19日(金) やや弱いが転覆当日とよく似た風が吹く
3)2003年9月21日(日) 台風型比良オロシ 台風15号
4)2003年9月22日(月) 台風型比良オロシ(続き) 台風15号
5)2003年9月27日(土) 比良山麓から大津方面の日中の北東風
6)2003年9月28日(日) 転覆当日とよく似た風が吹く
7)2003年9月29日(月) 北小松での比良オロシ崩れの北東の風

<事故当日のビワコダス風データ>
Data1)全観測点10分平均風データ(ビワコダス形式)
Data2)北小松、栗東、長浜観測所設置場所(地図)
Data3)北小松風観測所10分平均風データ(風速・風向表示形式)
Data4)栗東風観測所10分平均風データ(風速・風向表示形式)
Data5)長浜風観測所10分平均風データ(風速・風向表示形式)
Data5)北小松・栗東・長浜における毎時最大瞬間風速データ
Graph1)北小松・栗東・長浜における毎時最大瞬間風速グラフ
Graph2)2003年9月北小松月刊風画像による比良オロシ分析

<比良オロシのパターンと特徴>
・今回の強風は、日本海にある高気圧から張り出してきた風が、若狭湾から琵琶湖に吹き込むことによりもたらされたものである。比良山系を越える風は比良オロシと呼ばれている。日本海高気圧による風の場合は、まず滋賀県北部地方に強風をもたらし、遅れて比良山系を越えたおろし風となって志賀町南東部の平野や湖面に強風をもたらす。
筆者と武田は比良オロシの発生要因を、6つの気圧配置にパターン化しているが、最も強いのは台風型で、続いて南岸低気圧型となる。高気圧型は南岸低気圧型と比べるとそれほど強くはないが、乾燥した風が山を越えてくるため、南岸低気圧型のような風枕が山頂に見られないのが普通であり、それだけに怖い。南岸低気圧による場合は、比良オロシに遅れて湖北で強風が吹く特徴がある。近年の特に強い比良オロシの観察については比良オロシ探求編を参照。
<類例>
さて、正確な位置が特定できたので、1998年から2003年までの9月に起こった日本海高気圧の張り出しによる類似の観測例を調べてみた。以下に挙げる。(類例1~7をクリックするとその日の風動画が見られます。左上に午前3時の天気図が現れるので気圧配置も分かります。)
1)1998年9月13日(日) 類例1
2)1999年9月 2日(木) 類例2
3)2000年9月19日(火) 類例3
4)2001年9月22日(土) 類例4
5)2001年9月28日(金) 類例5
6)2002年9月 9日(月) 類例6
7)2002年9月25日(水) 類例7

<考察>
比良オロシは、北小松では常に北西~北北西の風である。これは「北小松は山に近いのと比良山系北部の南東部に位置するため、山を越えてきた風の向きが一定しているから」と考えられる。北小松でも山を越えてこない場合には、明神崎を回り込む北東の風が吹く場合があり、この場合は風向がばらつくことが普通である。志賀町中部の比良や志賀、南部の蓬莱、和邇となると、比良オロシは南比良連峰と言われる釈迦岳や武奈ケ岳、堂満岳、打見山、蓬莱山といったより高い山頂を越えてくる必要があり、また山岳地帯から琵琶湖までが距離が長くなるため、風速の弱まりや風向のばらつきが起こることが考えられる。

<まとめ>
今回の転覆場所近くのBSCヨットスクール観測所では、類例1から7まででかなり風の吹き方が異なるが、類例7の19時50分頃のように、北小松では北西であるのに、蓬莱では北東の風が強まっている場合も見られることが分かる。
私は今回の一連の新聞やTV局のインタビューで、比良オロシによる北西の強風が要因であることを強調していたが、蓬莱沖約1kmと現場が特定されたため、あの場所ではビワコダスの過去の観測例から見て「北東の突風」が吹くことも不思議ではないと言い直したいと思います。いずれにしても比良山系という地形と琵琶湖がもたらす特殊な風がもたらした悲劇だと思います。
類例7の19時50分頃の北東風がどれくらいの瞬間最大風速を持つのかは、パソコンのHDDデータに残っていると思われるので、分かり次第公開したいと思います。

<武田栄夫(元日本気象協会)氏のビワコダスメーリングリストへのコメント>
松井さん、ビワコダスの皆さん(2003年9月24日 20:57)
 ここ2,3日は多忙を極め、コメントするのが遅れました。志賀町沖でのヨットの遭難事故に関して新たなサイトを立ち上げていただき、ありがとうございました。短い時間に過去の実例からこれだけ検索して、その結果を表示されたことに敬服いたします。
 ご指摘の類例7は気圧配置、出現の時期、風の吹き方に今回と類似性が高いですね。沿海州付近に高気圧の中心があって、気圧傾度は決して急峻とはいえない、いわば、「曲者型」のタイプです。等圧線の走向は、大きくまとめて描けば、西日本付近では北東ー南西を示しています。
 昨年の9月25日とは、10日違いとはいえ、大きく見れば、ほぼ同じ時期です。南船路と北小松を比較して19時はいずれも同じ北西ですが、19:40~19:50ごろには北小松は北西でも南船路は弱いながら北東に急変していますね。「弱いながら」と表現しましたが、あくまで平均値のことで、瞬間値は別の話です。この瞬間値が分かればよいですね。また、この瞬間値はあくまで陸上でのことで湖上ではさらに強かったことも考えられますね。いずれにしても、1941年の四高漕艇部遭難以来の悲劇でした。 Hideo Takeda(武田栄夫)

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